真夜中に読んだ本『怖い女』より

 『母性という神話』の荻野美穂による解説では、バダンテールの主張が端的にまとめられている。バダンテールの主張の根幹は、「母性愛とは女にはじめから備わった自然や本能などではなく、近代が生み出した歴史的産物にすぎない」ということであり、そこにはヨーロッパの歴史的社会的背景がある。すなわち18世紀末頃から女性には本能的な母性愛が備わっているという考えが流布し始め、これが19世紀を通じて強化され、20世紀に至っては「自明の事実」あるいは「真実」とまで考えられるようになったのであるが、それを推し進めたのは、近代国家の成立、人的資源としての「国民観」、そして夫婦と子供の愛情による結びつきを重視する「近代家族の誕生」であった。このような観念から外れた女性に「悪い母親」の烙印が押されることになった。
(『怖い女(副題)怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』の第六章「『リング』貞子ー母なるものの恐ろしさ」より)