『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)

 著者は、時代劇・映画史研究家の春日太一氏。40代になったばかりの春日氏の、時代劇に対する愛情と、時代劇の衰退に対する嘆きが切々と感じられる、感動的な本です。特に印象に残ったのは、大河ドラマの劣化について。昔の大河ドラマ徳川家康』について書いた部分を抜粋します。(以下、抜粋)

 『徳川家康』で家康を演じた滝田栄は、役を受けるに当たり、大きな悩みを抱いたという。それは「なぜここまで執拗に豊臣家を追い込み、滅ぼさなければならなかったのか」ということだ。
 これを解き明かすべく、滝田は家康の心境を知ろうと、家康が幼少の頃に人質生活を送っていた駿府臨済寺で僧侶たちと共に二週間の修行生活を送った。過酷な生活の中で、彼は家康の心の声と対峙する。こんなに辛い人質生活を送る子供が現れる時代はもう終わりにしなければならない。そのためには、自分が鬼となってでも豊臣家を滅ぼすしかない・・・・・・。滝田演じる晩年の家康の演技には鬼気迫るものがあったが、そこには痛切な想いが秘められていた。
 そうした葛藤のドラマは、今の大河にはもはや必要のないものになってしまった。(抜粋、終わり)