谷崎さんの地獄変 『一と房の髪』(谷崎潤一郎)

 芥川さんの『地獄変』は、地獄の絵を描くために、自分の娘が焼死させられる場面を見た絵師の話。
 谷崎さんの『一と房の髪』は、大正末期の横浜を舞台に、一人のロシア人女性を三人のハーフの男性が取り合うという設定で、関東大震災に被災した時に、女性が三人をもてあそんでいたことが発覚し、逆上した三人のうちの一人が、燃え上がる家の中で女性を射殺し、自分も自殺してしまいます。その場面を目撃した別の一人が、「誰か此の世に、此れほど恐ろしく、此れほど美しい光景を目睹(もくと)したでしょうか?」と、後に語る部分が、まさしく『地獄変』だと思いました。

 これを読んだのは中公文庫『潤一郎ラビリンスⅣ 近代情痴集』という本。ちょっと買うのに抵抗があるネーミングです。(自分で買った本ですが。)