創作の苦しみ 『暗殺者』(車谷長吉)

 直木賞受賞作『赤目四十八瀧心中未遂』を書き上げた時のことについては、以前何かの作品で読み、このブログに書きましたが、『暗殺者』というエッセイにも書かれていたので、抜粋しておきます。(以下、抜粋)

 私は今年平成十年の正月明けに、文藝春秋から『赤目四十八瀧心中未遂』という長編小説を上板していただいた。私としては六年の月日をついやし、全身全霊の魂を傾けて書き上げた、はじめての長篇小説である。いや、この作品を書きたいと、はじめて思うたのは三十二歳の時で、その時から算えれば十八年の歳月を尽くして書いた小説である。初稿を書き上げたのは、平成八年二月二十六日の夕暮れで、達成感と言うよりは、余りの虚脱感のため、その晩から私は精神に異常を来たし、嫁はんは泣き喚き、数日後、意を決した嫁はんに浦和の癲(てん)狂院へ連れて行かれた。強迫神経症である。以来、いまも病院通いは続いている。(抜粋、終わり)

 このエッセイは、『錢金について』というエッセイ集に収められているのですが、このエッセイ集には、『直木賞受賞修羅日乗』という、受賞が決まってから1か月余りの日記も載せられていて、受賞後も大変だったことがわかります。