お金のためでも、イヤなものはイヤ 『百鬼園随筆』(新潮文庫)

 ちくま文庫で読んできた内田百閒先生の作品、図書館に行ったら新潮文庫版の随筆集もあったので借りてきました。既読の作品も多かったのですが、読み終えた後の、川上弘美さんの「解説」に感動しました。川上さんは、百閒先生について、まず芸術院会員を辞退した時のエピソードを書いています。(以下、抜粋ですが、百閒先生の弟子であった法政大学教授(当時)の多田基氏の文章からの抜粋です。)

 正餐が始まる前に先生が話された用事の第一は、芸術院会員の辞退の件であった。(中略)「貧乏な自分には六十万円の年金は有難いが、自分の気持を大切にしたいので、どんな組織にでも入るのが嫌だから辞退する。このままにしておくと来年一月頃正式に発令されそうなので、自分の意向を早く芸術院院長高橋誠一郎さんに伝えて欲しい」(中略)というのであった。(抜粋、終わり)

 「貧乏だけれども、組織に入るのはイヤ」という百閒先生、心から尊敬いたしますm(__)m。なお、川上弘美さんは、百閒先生の作品について、「日常というものは実は存外迷宮めいたものであって、百閒はそこのところをたんたんと描写した作家だったのだ」と書いています。「迷宮の夢」をよく見る私ですが、それを読み解くヒントを与えてくれたような気がします。