職務怠慢五沙弥先生 『贋作吾輩は猫である』(内田百閒)

 漱石先生の『吾輩は猫である』の、続編的な性格の作品で、猫を飼っている五沙弥入道(元教師)の所に、昔の教え子たちが遊びに来る場面は、百閒先生の随想のままのような感じです。(以下、教え子たちとの会話を抜粋)

「文章家の先生に指導せられて、僕達は格別上達したような気もしなかった」
「あれでいいんだよ」
「宿題を返して貰っても、どこも直してあるわけではなし、その癖八釜(やかま)しくて、出さないとおどかされたよ、ねえおい」
「君達の書いた物が、一一直せるわけのものではない。おどかして書かせれば、それが練習になって、それで教師の任は果たした事になる」
(中略)
「滅多に君達の作文を読んだ事はないよ」
「おどかして取り上げるだけで、お読みにならないんですか」
「君達の書いた物が読めるものか」
「驚いた。しまった。だまされた」(抜粋、終わり)

 ちなみに評点(成績)は、優劣がつかない「月」とか「花」を付けたとのことで、牧歌的な話ですね。(今なら、大問題かも(*_*))