ナチスは
ユダヤ人を絶滅させるために、
ユダヤ人を無国籍者として国外追放する方法をきわめて巧みに利用した。まず最初にやったのは、国内の
ユダヤ人たちを「ドイツにおける非公認の
少数民族の地位に追い込み、次には無国籍者にして国境から追放する」ことだった。その際には、追放する
ユダヤ人たちをできるだけ貧しい状態に追いやっておくのが秘訣だった。「
ユダヤ人が金も国籍も旅券もなしに群れをなして国境を追われるようになれば」、うけいれ国は
ユダヤ人を厄介者として扱わざるをえなくなるからである。そしてそれは「ドイツの
ユダヤ人政策にとって最上の
プロパガンダとなった。
ユダヤ人を乞食として国境から放りだすのがドイツにとって得策である。なぜなら移住者が貧しければ貧しいほど、うけいれ国にとって重荷になるからである」。
このように移住者をうけいれさせられた国は、ドイツのような「
全体主義的な政権と同じ基準を採用することを強制される」ことになる。そして
国際法に違反して、移民を他国に送り出すか、収容所で移民たちの人権を無視せざるをえなくなる。こうしてドイツの隣国でも、ドイツと同じような
反ユダヤ主義が蔓延するようになり、
ユダヤ人の扱い方について、ドイツを非難することができなくなるのである。
やがて
ユダヤ人は回り回ってドイツに送還されてくるようになる。
ナチスが最後に行ったのは、送り返されてきた
ユダヤ人を自由に「処分」してしまうことに、異議があるかどうかを、他の諸国に公然と尋ねることだった。「そしてすでに絶対的な無権利者とされた
ユダヤ人はここでもういちど全世界に公然と売りだされ、彼らの返還を要求する者があるかどうかが確かめられた。そして彼らが全人間世界における<余計者>あるいは居場所のない者であることが実証されたとき、初めて絶滅が開始された」のである。