復員のおねだん 『戦争体験と経営者』(岩波新書)

 『瀬戸内少年野球団』『犬神家の一族』など、終戦直後を描いた作品では、復員者に重要な役割が与えられることがありますが、『戦争体験と経営者』という本に、復員に関する興味深いことが書いてあったので抜粋しておきます。なお、文中に「中内」とあるのは、ダイエーの創業者である中内㓛氏のことです。(以下、抜粋)

 昭和二十年十一月、マニラから出航した復員船は、鹿児島の加治木港に着いた。そこから中内は生家のある神戸を目指した。復員した中内に渡された復員手当は六十円。当時は豆腐が五円の時代で、十二丁しか買えない金額であった。「お国のため」と信じて戦地に赴き、地獄のような戦火の中を生き延びて帰っても、わずかな手当では復員後の生活の見通しはまったく立たず、信じた国からは放り出されたも同然であった。それは、国家に対する強い不信感を中内にもたらした。(抜粋、終わり)