イスラームと石油(『物語 アラビアの歴史』「おわりに」より)

 『物語 アラビアの歴史』の「おわりに」の中で、筆者はイスラーム化と石油の影響について書いています。(以下、抜粋)

①メッカとメディナが位置するヒジャーズ地方だけはイスラーム化の恩恵を被り、巡礼者の増加やイスラーム政権の保護によってそれなりに潤ったものの、それ以外の地の経済や社会はイスラーム化後もそれ以前とほとんど変わらぬ状況が続いた。

②第二次大戦後アラビア半島東部の各地で油田が発見されたことによって起こった変化のほうが、はるかに大きいのではなかろうか。それまで海外との交易を別にすれば、遊牧やナツメヤシ栽培を主とする農業、漁業、それに盗賊業などで細々と生計を立てていたのが、突如一夜のうちに労せずして富豪となり、砂漠に超モダンな都市が出現したのである。まさにアッラーのお恵みとしか言いようがなく、歴史的に前後の脈絡なく出来したこのような事態を前にすると、歴史を研究する者としては無力感に襲われざるをえない。(抜粋、終わり。①、②の番号は便宜上付けました。)

 上記②の最後の部分は、筆者の正直な感想が書かれていて、好感が持てます。また、「盗賊業」という表現にはドキッとします。
 新書でありながら400ページ近くの大書を、何とか読み終えました。イスラーム化以前のアラビア史を概観した書物は、この本が出る以前は日本にはなかったらしく、「アラビア史の教科書」とも言える本だと思います。