新婚夫婦の外食 『阿呆者』(車谷長吉)

 『阿呆者』の中に、長吉兄いの新婚当時のことを書いたエッセイがあります。
 48歳の時に49歳の女性と結婚した長吉兄いですが、奥さんはすぐに友達数人と20日間ほどフランスに行ってしまったとのこと。(前々から約束していたそうです。)彼女の帰国後は、出雲・隠岐へ新婚旅行に行ったそうですが、旅行から帰ってしばらくしてからのこと、(以下、抜粋)

 ある夕、私は嫁はんに「たまには外で食事をしようか。私がご馳走するよ。」と言うた。嫁はんはぱッと顔が輝き、いそいそとお出掛けの用意をしはじめた。女は大変なのである。
 連れて行ったところとは、田端銀座精肉店の前だった。私は揚げたてのコロッケを二個買うて、一個を嫁はんに渡した。嫁はんは変な顔をした。「ここでコロッケを立ち喰いするんだ。」「えッ。」「外で晩飯を喰うんだ。うまいぞッ。」嫁はんの顔に失望の色が広がった。嫁はんは泣きそうな顔で喰い出したが、やがてコロッケの立ち喰いはうまいということが分かったらしく、「おいしいわね。」と目を輝かせた。(抜粋、終わり)

 平松洋子姐さんもエッセイの中で「コロッケの買い食い」のことを書いていましたが、よほどおいしいのでしょうね。私もしてみたいと思いました。