漱石先生とドストエフスキー 『思い出す事など』(夏目漱石)

 『思い出す事など』という随筆集に、ドストエフスキーのことが書かれていました。(以下、抜粋)

 ドストイェフスキーには、人の知る如く、子供の時分から癲癇の発作があった。われ等日本人は癲癇と聞くと、ただ白い泡を連想するに過ぎないが、西洋では古くからこれを神聖なる疾(やまい)と称えていた。この神聖なる疾に冒される時、或はその少し前に、ドストイェフスキーは普通の人が大音楽を聞いて始めて到り得るような一種微妙の快感に支配されたそうである。それは自己と外界との円満に調和した境地で、丁度天体の端から、無限の空間に足を滑らして落ちるような心持だとか聞いた。(抜粋、終わり)

 私がつい最近読み終えたばかりの、ドストエフスキーの『白痴』を、漱石先生も読んだのかな~と、ちょっと嬉しくなりましたが、伝聞を意味するような語尾もあるので、人から聞いただけなのかもしれません。また、「人の知る如く」とあるように、漱石先生のころから、ある程度有名な話だったのかもしれませんね。