不思議な借金生活 『百鬼園日記帖』(内田百閒)

 今からほぼ100年前、百閒先生が30歳のころの日記です。ドイツ語教師として2校(途中から3校)を掛け持ちし、翻訳を手がけ、しかも雑誌に小説まで載せているといのに、なぜか壮絶な借金生活。毎日のように金策に駆け回っています。(以下、大正8年7月29日の日記から抜粋)

 金が出来ない為半期の医者の払い、家賃(もし今月払えなければ四ヶ月と13円たまる)と月末の払の金がちっともないけれども、もうこのまま堪えて居ろうと思った。(抜粋、終わり)

 借金の利子を払うために、別のところから借金をするという、とんでもない生活ですが、それにしては通勤に車(タクシーや人力車)をよく使い、毎日酒を飲み、頻繁に外食し、宴会にも参加しているので、あまり同情できないような気がします。借金漬けでありながら悲壮感を感じさせないところが、百閒先生のよいところかもしれません。