目からウロコの本 『内田樹による内田樹』

 内田樹先生が、ご自身の書かれた本・翻訳された本について、ご自身で解説をするという趣向の本です。最も印象に残ったのは、『レヴィナスと愛の現象学』の解説でした。
 ユダヤ人の哲学者レヴィナスが、ホロコーストを神が止めなかった理由について徹底的に考え抜いた内容に感動しました。(以下、抜粋)

 ホロコーストは人間が人間に対して犯した過ちでした。それを神が人間に代わって赦すことはできません。もし、人間の犯した過ちを神が一つひとつただし、その償いをしていたら、人間はどうなってしまうのか。永遠に幼児のままでいることでしょう。勧善懲悪の仕事を神にまるごと委ねてしまったら、人間は何もしないで、ただ神の裁定を待つだけでいいことになる。目の前で不正が行われていても、自分でそれを防ぐ必要も、咎める必要もない。自分よりもはるかに手早く、正確に神が悪人を罰してくれるはずだからです。目の前に飢えた人、渇いた人、抑圧されている人がいても、彼らに手を差し伸べる必要はない。神がすぐに彼らを救ってくれるはずだからです。神が完全に支配する世界では、人間は倫理的である必要がなくなる。判断する必要も、思考する必要さえなくなる。(抜粋、終わり)

 なかなか厳しい神様だと思いますが、人間の「成熟」を促すというのが神様の役割だということらしく、内田先生の原点はここにあるのかな? と思いました。