バブル嫌い 『内田樹による内田樹』

 内田先生が、ご自身の著書『下流志向』について書かれた文章の中に、印象的な部分がありました。(以下、抜粋)

 バブル最盛期に高校のクラス会がありました。その席で、参加者全員が株と不動産の話をしているときに、話題に加わらない僕に向かって、友人が「なぜウチダは株をやらないのか?」と訊いたことがありました。僕が少し不機嫌に「お金は額に汗して得るものだろう」と答えたら満座の爆笑を買ったことがあります。そのときに友人が言った言葉を今でも覚えています。「ウチダ、あのね、お金が地面に落ちているんだよ。ただ、しゃがんで拾えばいいだけなんだよ。なんで拾わないんだ?」
 もちろんお金が地面から生えるわけじゃない。それは誰かの懐から落ちた金です。それを誰かがかすめ取っている、ただそれだけの話です。株取り引きというのはバクチです。何も創造しない、何も生み出さない。ただ、金がぐるぐる回っているだけです。バブルのときには慣れない素人が一攫千金を夢見て、定期預金を解約して、ぞろぞろと賭場に降り立ってきました。ですから、多少とでも目端の利く人間は素人からお金を巻き上げるチャンスがあった。そうやって玄人のばくち打ちたちがさっさと売り抜けて、素人は紙くずになった株券や値崩れしたマンションを抱えて途方に暮れただけです。そんな時代のどこが「いい時代」なのか、僕にはさっぱりわからない。(抜粋、終わり)

 今はバブルとは全く違う時代ですが、一攫千金をねらったり、それをあおったりするする風潮は、ネットの影響で、むしろ強まっているような気がします。